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優勝シャンパンファイトから見えたナゲッツの魅力と来季への一歩|NBAファイナル2023

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Nikola Jokic
(NBA Entertainment)

率直に言って、デンバー・ナゲッツの優勝直後のシャンパンファイトは統制が取れていなかった。ロッカールームではシャンパンのしぶきが飛び交い、中でもトーマス・ブライアントが陣頭指揮を取ってボトルを振り回している。ジャマール・マレー、アーロン・ゴードンもゴーグルを着用し、楽しそうに飛び跳ねている。ただ、優勝経験の多いチームの祝祭とは一線を画し、どこかまとまりがない印象も残した。

雑然としたセレブレーションは会見場でも続いた。ファイナルMVP(最優秀選手)に輝いたニコラ・ヨキッチが会見の壇上でテキストメッセージをチェックしようとすれば、依然として興奮状態のマレーはしばらく喋った後、「ところでどんな質問だっけ?」と聞き直す場面も。ゴードンとブラウンは「今夜は祝いたい」「いや数週間は祝うんだろ?」と漫才のようなやりとりを繰り広げるなど、栄冠直後の選手たちは本当に初々しく感じられた。

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それも当然だったのかもしれない。1967年にチーム創設以来、ナゲッツにとって初めてのファイナル制覇である。優勝経験があるのはケンテイビアス・コールドウェル・ポープ(KCP)だけで、ほとんどの関係者、主力選手にとってもこれは初体験。だとすれば、シャンパンファイトが散漫だったのも、会見場でのやりとりがジョークのようだったのも当たり前だったのだろう。

「言葉にするのは難しかった。(優勝決定時は)シュールな瞬間だったから」

会見でマレーはそう述べたが、マレーだけではなく、ナゲッツの選手たちはおそらくどう反応すればいいのかわからなかったのだ。56年目にして初優勝を飾ったチームらしく、その祝祭は即興的で、そして幸福感で一杯のものだった。

苦しみながらも勝利をもぎ取った底力

ここに辿り着くまで、シリーズの決着をつけた第5戦はビューティフルな戦いではなかった。3勝1敗と王手をかけてこの日に臨んだナゲッツだったが、栄冠を目前に控えた緊張のためか、特に前半の動きは精彩を欠いた。プライドをかけて臨んだマイアミ・ヒートの激しいディフェンスもあって、ナゲッツは最初の22本の3ポイントショットのうちの20本、13本のフリースローのうちの7本をミス。前半は7点ビハインドで折り返すと、ようやく攻勢に転じた後半もなかなか突き放すことは叶わなかった。

一時は逆に7点をリードしたものの、第4クォーター終盤、力を振り絞ったジミー・バトラーが8連続得点を挙げてヒートは逆転。悪夢のような展開に、1万9520人を動員したボール・アリーナは一時的に静まり返った。しかしそんな修羅場から、最後の最後で抜け出したのはやはり地力で勝るナゲッツの方だった。

大黒柱のヨキッチがショットを決めて体制を立て直すと、以降はブルース・ブラウン、KCPの活躍で加点。難いディフェンスで勝負強いバトラーに自由を許さず、第4Q最後の1分58秒は相手に1点も与えずに勝負を決めた。タフなゲームを地元コートで何とか制しての勝利を、マイク・マローン・ヘッドコーチは誇らし気に振り返った。

「オフェンスが機能せず、ショットが決まらなければ、ディフェンスを頑張らなければいけない。ゲームを通じてそれをやってくれたことを最も誇りに感じる」

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Denver Nuggets
(Getty Images)

プレイオフを戦い抜いたチーム力

今回の栄冠の立役者が、ファイナルMVPを獲得したヨキッチだったことは明らかだ。得点(600)、リバウンド(269)、アシスト(190)のすべてでリーグ1位というNBAプレイオフ史上初の選手になったセルビア人のプレイはこれからも語り継がれていく。今後、ヨキッチこそがNBAの現役No.1選手であるという論調は増えていくことだろう。

ただ、その一方で、優勝するようなチームだから当然のことだが、ナゲッツはヨキッチのワンマンチームではなかった。ここに到達するためには、ファイナル平均21.4得点、10アシストをマークしてヨキッチとワンツーパンチを形成したマレーのクリエイティビティーがどうしても必要だった。マローンHC、ジェフ・グリーンのリーダーシップも不可欠だった。ゴードン、KCP、ブラウン、マイケル・ポーターJr.らの精力的なディフェンスがなければ、今ポストシーズン全体でのナゲッツの110.2というディフェンシブレーティングもあり得なかった。

『全員プレイ』などというと陳腐に聞こえるかもしれないが、ヨキッチ、マレーを軸に様々な選手が活躍するナゲッツの強さが分かりやすい形で披露されたのが第5戦の後半だった。だとすれば、それはやはり一丸となって積み重ねてきたものの結実。そして、これほどの才能に恵まれ、バランスが取れ、同時にまだまだ若いチームだからこそ、今季だけでなく、来季以降の活躍も楽しみになる。

「(この栄冠を)繰り返せると信じている。このチームの選手たちは謙虚で、バスケットボールIQを備え、努力家だ。こうやって優勝しようと、みんなのキャラクターは今後も変わらないだろうから」

会見の最後の最後でゴードンが語ったそんな言葉は、真実味を持って響いてくる。

今季の優勝が新たなダイナスティー(王朝)の開始などと考えるのはもちろん早すぎる。その一方で、この魅力的なチームがまたファイナルのステージに立つことを想像するのはそれほど難しいことではない。そして、いつか彼らがこの場所に戻ってきたら……その際は栄冠後のシャンパンファイトもより洗練された形で行うことができるのかどうか、今から楽しみにしておくべきでもあるのだろう。

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著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。