エロール・スペンスJr vs テレンス・クロフォード:ついに実現するウェルター級4団体統一戦の3つの重大な疑問

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Terence Crawford - Errol Spence Jr.
(SN/GETTY)

現地時間5月25日、ここ数年待望されながらも幻になりかけていたエロール・スペンス・ジュニア vs. テレンス・クロフォード戦の正式アナウンスが行われた。7月29日に設定されたこのウェルター級の4団体統一戦は、今年実現する試合のなかでも指折りのメガマッチだ。だが、同時に3つの重大な疑問が浮かんでくる。

名門誌『The Ring』や『Boxing Scene』など専門誌での執筆経験を持つ本誌シニアエディター、アンドレアス・ヘイルがその疑問に斬り込む。

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ついに、である。

長年に渡る迷走の末、WBAスーパー・WBC・IBF世界ウェルター級王者のエロール・スペンスJr.とWBO同級スーパー王者のテレンス・クロフォードがついに対戦合意に達した。2023年7月29日、ラスベガスのT-モバイル・アリーナにおいて、この両者が激突する4団体統一王座戦が行われる。

Errol Spence Jr.
(Ryan Hafey/Premier Boxing Champions)

4月のジャーボンテイ(ガーボンタ)・デイビス vs. ライアン・ガルシア、そして5月のデビン・ヘイニー vs. ワシル・ロマチェンコ。最近立て続けに行われたこの2つのビッグマッチがスペンスとクロフォードに危機感を与えたことは間違いないだろう。もはやこの両者が対戦を避ける言い訳はなくなったのだから。

2022年後半にこの試合の実現を妨げたすべての障害は解決済みだ。ようやく7月末に両者は激突する。そして、どちらが勝利を収めても、敗者にはダイレクト・リマッチを要求する権利がある。

世界中のボクシングファンは諸手を挙げてこのニュースを喜ぶだろう。しかし、この1戦に関して、3つの重大な疑問がある。

スペンス vs. クロフォードは2023年最大の試合になるか

まずは「2023年最大の試合になるか」だ。これは表面的に見ると微妙なところだろう。

スペンス vs. クロフォードは、フロイド・メイウェザー vs. マニー・パッキャオ以来、ウェルター級で最も実現が待ち望まれていた試合であることは確かだ。それでもこの1戦が「最大」のものになるかどうかは分からない。

デイビスとガルシアは、ネバダ州ボクシング史上5番目となるファイトマネー(約31億8000万円)と120万件のペイ・パー・ビュー売上件数を記録した。デイビスとガルシアはどちらもソーシャルメディアでの影響力が大きく、多くの若い世代をボクシングファンに変えた。そのことが彼らの試合への興味を最大限にかき立てた。

その点についてはスペンス vs. クロフォードが越えるべきハードルは高い。スペンスとクロフォードはどちらもソーシャルメディアでは目立つ存在ではないからだ。2人ともInstagramのフォロワー数は100万人より少なく、Twitterでは50万人にも及ばない。スペンスは33歳、クロフォードは35歳と、年齢も高めだ。

だが幸いなことに、彼らのパフォーマンス自体は最盛期を過ぎてはいないと思われる。リング内での巧みな動きは目の肥えたファンを満足させ、一般受けもするだろう。2人ともこの1戦を長年待ち望んできた。モチベーションは相当に高い。クロフォードはプロモーターを変え、『プレミア・ボクシング・チャンピオン』(PBC)と2試合の契約を結んだ。すべての障壁は除かれたのだ。

少なくともこの1戦は、ボクシング界で最大の価値があることを証明するだけではなく、本流である実力主義のボクシングを若い世代へアピールする絶好の機会なのかもしれない。デイビス vs. ガルシアを超えるチャンスがあるのだ。

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スペンス vs. クロフォードが実現するのは遅すぎたか

「実現するのは遅すぎたのか」。そんなことはけっしてない。

そのように言い立てる声に耳を傾けてはいけない。

メイウェザーとパッキャオの場合とは異なり、スペンス(28勝0敗、22KO)とクロフォード(39勝0敗、30KO)はどちらも無敗で、そして2人ともまったく衰えを見せていないのだ。

スペンスは昨年4月にヨルデニス・ウガスを10回TKOで破り、それまで保持していたWBCとIBFのウェルター級王座に加えて、WBA(スーパー)王座を獲得した。昨年後半にスペンス vs. クロフォード戦の交渉が暗礁に乗り上げたあと、クロフォードは12月に無名のダビッド・アバネシヤンとの対戦を選び、6回KO勝ちでWBOタイトルを防衛した。

ボクシングファンは交渉がここまで長引いたことに不満があるかもしれないが、この2人は辛抱強く、強く待ち望まれた試合が実現するのを待った。過去のメイウェザー vs. パッキャオ戦は年月が過ぎることで興味が高まったことへの格好の例になるはずだ。

スペンス vs. クロフォードはパウンド・フォー・パウンドの最高位を決めるか

Terence Crawford

「パウンド・フォー・パウンドの最高位を決める試合になるか」。これはそうなるかもしれない。

多くのパウンド・フォー・パウンド格付けにおいて、スペンスとクロフォードはどちらもトップ5以内の位置にある。この1戦の勝者がオレクサンドル・ウシクと井上尚弥を抜いてランキング1位の座に着く可能性は高い。

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クロフォードはすでにスーパーライト級で4団体統一王者になっているうえ、10連続KO勝ちを継続中だ。対戦相手のなかにはさほどの大物はいないが、それでもクロフォードの長きに渡る経歴は瞠目(どうもく=目を見張るもの)に値する。2021年11月にショーン・ポーターを10回TKOで下した試合がこれまでのキャリアでハイライトだと言えるだろう。ポーターはそれまでKO負けの経験がなく、そしてクロフォード戦を最後に引退したからだ。

一方のスペンスはこれまでに多くのスター選手を破ってきた。ダニー・ガルシア、ミゲル・アンヘル・ガルシア、ケル・ブルック、ポーター、そしてウガスだ。クロフォードとは対照的に、スペンスはデビュー以来ずっとウェルター級に留まり、順調に実力を上げてきた。2021年に予定されていたマニー・パッキャオ戦が目の故障によって中止になるという不運があったが、その実力はボクシング界の誰もが認めるところだ。

この1戦が不可解な判定で決着するようなことがない限り、勝者はパウンド・フォー・パウンドでランクされるどのボクサーよりも重要な勝利を得るだろう。人気面ではボクシング界の「顔」にはなれないかもしれないが、絶対王者であることを否定はできなくなるはずである。

原文:Errol Spence Jr. vs. Terence Crawford: Three burning questions ahead of their 2023 undisputed welterweight title fight
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部

※本記事は英語記事を翻訳し、日本向けの情報を加えた編集記事となる。


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著者
Andreas Hale Photo

Andreas Hale is the senior editor for combat sports at The Sporting News. Formerly at DAZN, Hale has written for various combat sports outlets, including The Ring, Sherdog, Boxing Scene, FIGHT, Champions and others.