『悪童』ルイス・ネリとは:黒豹の異名を持つ獰猛なるインファイター|戦績・経歴|5.6 東京ドーム

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Luiz Nery
(時事)

5月6日(月・祝)東京ドームで、ルイス・ネリが井上尚弥に挑戦する。本来であれば日本での試合資格を失い、永久追放の身だった『悪童』だが、『モンスター』相手の一世一代の大勝負のため、厳しい検査体制を受け入れ、日本に乗り込んできた。

悪評ばかりが先行するネリだが、ボクサーとしては一体どんな人物なのか。そのプロフィールと戦績を紹介する。

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■失うものがない『悪童』が日本再臨でモンスター喰いなるか

5月6日、ルイス・ネリと井上尚弥によるスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチが、東京ドームで行われる。12回戦とアンダーカードの試合はAmazonプライムビデオで独占ライブ配信される。

2017年と2018年の日本での山中慎介とのWBC世界バンタム級王座戦における、ドーピング発覚と体重超過によって日本ボクシング界から事実上の永久追放処分を受けたネリは、その後も体重超過を繰り返したことで、『悪童』の汚名を着ることになった。

スーパーバンタム級転向以降もその不遜なキャラクターは不変だったが、母国メキシコでは人気者として(メキシコに本拠地を置く)WBC関係者からも寵愛されてきた。

だが、かねてからSNSを通じて因縁関係になった井上尚弥という世界最大の軽量級スーパースターとのメガマッチ実現のため、厳しい事前体重管理と慣例よりも多いドーピング検査を受け入れ、日本の地に再び戻ってきた。

34年ぶりの東京ドームでのボクシング興行で、1990年2月のマイク・タイソン vs ジェームス・ダグラスの『世紀の大番狂わせ』再現を目指し、キャリア最大の試合に捨て身で挑もうとしている。

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■高速でにじり寄って浴びせる猛打で黒豹を異名を得る

ルイス・エステバン・ネリ・エルナンデスは、1994年12月12日にメキシコのティファナに生まれ、少なくとも14、5歳の頃にボクシングを始めたとされる。

メキシコのスポーツ紙『ESTO』によると、ネリ少年は週末に母親と一緒に見ていたボクシング番組の影響を受け、総合格闘家の祖父と叔父を持ちながらも、自身の意思でボクシングに進んだという。憧れのファイターを3人挙げるなら、マニー・パッキャオ、ファン・マヌエル・マルケス、フリオ・セサール・チャベスと答えた。中でもとくにメキシコきっての拳聖チャベスに夢中になった。

アマチュアで9勝(5KO)0敗を挙げると、17歳の2012年5月にプロ転向。1R TKOでの華々しいデビューを飾った。その後も世界タイトル初挑戦までに23連勝(17KO)。素早く相手ににじり寄り、高速ハンドスピードの猛打で叩きのめすその獰猛なスタイルから、2016年のWBCコンチネンタル(アメリカ大陸)バンタム級王座を得る頃には『Panterita』(パンテリータ=パンテラ=黒豹)の異名をとっていた。

そして2017年8月15日、自身初の世界戦で、WBC&リング誌バンタム級王者の山中慎介に挑んだ。ネリは4RでKO勝ちを収めて新王者となったが、数日後、試合前に受けていた薬物検査により、ジルパテロール(禁止薬物)に陽性反応が検出された。リング誌は王座を山中に差し戻したが、メキシコに本拠地を置くWBCはネリに甘く、「知らずに汚染食物を食べてしまった」という証言を認め、王座保持を許した。

2018年3月1日、山中とのダイレクトリマッチが決まるも、ネリは前日計量においてバンタム級のリミットを3ポンド(約1.36kg)オーバー。ここまでネリを擁護してきたWBCもさじを投げ、王座を剥奪した。山中が勝てば王座移動する契約で試合が成立するも、計量後にさらに体重を戻したネリは2Rで山中を沈めた。

失意の山中が引退に追い込まれたこともあり、JBC(日本ボクシングコミッション)は、ネリを日本から永久追放処分にした。

2018年10月から再始動したネリは、WBCバンタム級シルバー王座決定戦でジェイソン・カノイをTKOで撃破すると、翌年3月には、マックジョー・アローヨにほぼ何もさせずに圧勝。JBCの処分に意を返すことはなかった。

悪癖は治らず…しかしスーパーバンタム級で井上尚弥とついに激突へ

だが、また『悪癖』がぶり返す。

2019年7月、元WBA世界バンタム級スーパー王者ファン・カルロス・パヤノ戦の前日計量でネリは、バンタム級規定体重を0.5ポンド超過。再計量をパスしたことで試合が成立し、9回KO勝ちを収めたが、4か月後のエマヌエル・ロドリゲス戦においては、1ポンドを超過。その挙げ句、再計量を拒否し、違約金を支払うことで試合成立を目論んだが、ロドリゲスが受取を拒み、試合中止に追い込まれた。

この一連の体重超過騒動を受け、井上尚弥は旧Twitter上で「ネリを業界追放すべき」とコメントしていた。

2020年初頭、ネリは世界ランキングから除外されていたが、WBAがスーパーバンタム級2位に、WBCは同級1位にランク入りさせる動きを見せ、2020年9月26日、WBC世界スーパーバンタム級王座決定戦で、アーロン・アラメダを世界2階級制覇王者となった。王者レイ・バルガスが脚のケガによる休養王者になったことで挑戦者決定戦から新王者決定戦に繰り上げされる強運に恵まれた結果だった。

だが、WBO王者ブランドン・フィゲロアとの統一戦で、ネリは7RでKO負け。キャリア初の黒星という汚点がついてしまった。スーパーバンタム級転向におけるスピード・パワー低下が露見した格好となったが、その後4戦4勝で復調。とくにWBA指名挑戦権を勝ち取ったアザト・ホバニシャン戦は、リング誌の2023年ファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれる接戦だった。

『パンテラ』ネリとして再起を果たしたように見えたが、次なる試合のため『悪童』モードに戻った。WBA・WBO王者スティーブン・フルトン、WBC・IBF王者マーロン・タパレスを破り、2階級目の4団体統一に成功した井上尚弥に「過大評価された平凡なボクサー」だのと挑発の言葉を送り続けたのだ。東京ドーム決戦に相応しいストーリー(日本ボクシング界の怨敵)を持つネリが井上陣営に選ばれた。

ネリも厳重な検査体制と違反時の重いペナルティに同意。試合45日前、30日前、14日前、7日前、前日計量での段階的体重検査、抜き打ちのドーピング検査(興行をサポートする帝拳プロモーションの前田会長によるとここまで4〜5回行われたという)を受けることを前提に、ネリの日本でのライセンスが回復された。

失うものもないネリは、34年前にジェームス・ダグラスが成し遂げた大番狂わせを再現すると豪語したが、果たしてその野望は現実のものとなるのか。


■ルイス・ネリのプロフィールとプロ戦績

  • 本名;ルイス・エステバン・ネリ・エルナンデス
  • 国籍:メキシコ
  • ニックネーム:パンテラ(黒豹)/悪童
  • 生年月日:1994年12月12日(29歳)
  • 身長:165cm(5-5ft)
  • リーチ:169cm(65in)
  • 構え:サウスポー
  • 総試合数:36戦
  • 戦績:35勝(27KO)1敗

著者
神宮泰暁 Yasuaki Shingu Photo

日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。